週末の名古屋は熱い。
元々外食文化が盛んな街だけど、金曜日は特に仕事帰りの会社員から学生まで、東海一円から人が集まって、
その中心である栄の熱気は深夜12時を回った頃、ピークに達する。
そんなありふれたいつもと同じようなとある金曜日、僕は久しぶりに会った大学の仲間とすでに3軒はしごして、
広小路から少し南に入ったところにあるバーに行き着いた。
27歳前後になった僕たちはぼちぼち仕事でも責任ある立場を任されたり後輩の指導に当たるなどちょっとずつ大人へのステップを登り始めていて、
こうやって学生時代のノリで飲んではいてもたまに真剣に仕事の話が挟まったり中には結婚しようと考えているやつなんかもいて。
変わらない仲間たちに流れる確かな時間の経過と成長がこそばゆいような誇らしいような、そんな心地よい夜を過ごしていた。
その店は雑居ビルの2階にある、ダーツとビリヤードが置いてあって、
奥まった一角はダンス用のスペースがあるようなちょっと広だけどごく普通のありふれたバーだ。
雑居ビルの中とはいえ2面がガラス張の角に位置していたため閉塞感はなく、
ネオンで照らされた繁華街の交差点を終電に遅れまいと足早に歩く女性や、
なんとか今夜を一緒に過ごすパートナーを探そうと見境なく声をかけまくるナンパ男(いずれもビルの二階から見下ろした僕にはそう見えただけだけどそう外れてもいないだろう)の姿を観察できるような場所だった。
男ばかり13人というちょっとした大所帯で始まった今夜の集まりも、3軒目を終えた時点で終電で帰る奴もいて今は4人だ。
それぞれカウンターでドリンクを頼んで思いおもいにさり気なく同年代から上くらいの客で溢れる店内を見回している。
男が飲み始めれば考えることは街角で必死に声を掛けている男とさ程変わらないんだろう。
僕も頼んだハイネケンの緑のボトルのネック部分を掴みながらざっと一回り店内を廻ってみた。
「今日結構入ってんじゃね?カワイイコ多いじゃん」
「つーかさ、この店も年齢層上がったよなー、昔は学生ばっかのイメージだったのに」
「そりゃ俺らが学生の頃から通ってるかなら、言ってみりゃ俺らと同じくらいの世代の奴らがそのまま持ち上がって通ってるってことっしょ」
「僕らも年をとったってことだよね」
「スーツ着てまでここに来るとは、昔は夢にも思わなかったけどな」
「いいんじゃない、スーツ、澤っち学生の時私服で来てたのよりモテるかもよ」
「スーツがモテるならアツシわざわざ家帰って着替えて来てんじゃねーよ」
「ほら、スーツだと踊りにくいからさ」
一時置いて窓際のテーブルに再集結した僕たちは与太話をしながらチューブトップで揺れる谷間や短すぎるスカートから伸びる太ももなんかを眺めながらひとしきり、
久しぶりに入ったこの店についての雑感を語り合った。
確かに今日のお店は混んでいて、2台あるビリヤード台も3台あるダーツも人だかりができているし、
15畳間ほどの広さがあるダンススペースでは、外国人を含めた30人ほどが音楽に合わせておしくらまんじゅうをするようにゴミゴミと蠢いていた。
「ちょい俺フロア行ってくるわ」
そう言っておしくらまんじゅうに参加しに行ったのはヒロシだ。
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